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外国のコンビニ行くと面白い。「あ、日本の雑誌と同じだ!」とか「なにこのジュース!?」っていうように。

実はその国にしかないものより、日本にもあるものを見る方がその国特有の違いに気づきやすいし、理解も早い。日本にもどこにでもあるものを見ると「せっかく海外に来たのに」って損した気分になるかもしれないけれど、ぼくに言わせれば逆だ。

たとえばアンコール・ワットは日本にはないので、見てもよく分からない。みんな希少性で見た気になってるけど、ほんとうは勉強が必要なはず。日本の寺院に関する知識があって比較できてはじめて本当に「見た」ことになると思う。そういうことだ。うん、極端なことを言った。異論は認める。あとぼくアンコール・ワット見たことないし。そしてやっぱり見たいし。

ただ、勉強しなくても、よく知っているものとは何か。どのような観点を持てばいいのか、というのはなかなか難しい問題だ。で、お勧めしたいのが「ドボク鑑賞」だ。そしてこのたび素晴らしいガイドブックが出版された。その名もヨーロッパのドボクを見に行こうだ。

「ドボク」とは要するに「土木っぽいもの」である。簡単にいうと橋だったり鉄道だったり、それこそ団地も工場も。あ、あともちろんダムも。おおむね国や自治体によってつくられる、でかい構造物だ。インフラと言ってもいいかもしれない。つまり、ぼくの趣味だ。なぜカタカナで「ドボク」かというと厳密な定義で「土木」からはみ出しちゃうものも含めたいから。ぼくはどこの国いってもとりあえず団地見ちゃうけど、これなんかまさにそうだ。

およそ日本人で橋もダムも団地も知らない人はいるまい。だからそういう「ドボク」を見ると旅が楽しくなるよ、とこの本はそういうガイドブックだ。詳しくなくていいのだ。騙されたと思って海外旅行行ったら団地を見てみよう。全然違う部分と、同じような雰囲気との両方に必ず気づくから。楽しいよ。ほんとに。マニアックに見えて、実は一番簡単に楽しめる旅の提案なのではないかと思う。

著者の八馬さん(twitter: @hachim088 )とぼくはいわば盟友であります。工場イベントには何回か一緒に登壇したし、ドボクツアーなんかもよく同行している。ちなみに大学の同じ学科の先輩だ。現在は大学の先生をやっている。この八馬さんが数年前にヨーロッパに1年間渡っていたときにドボクめぐりをしまくっていて、その成果が一冊にまとめられたのがこの本というわけだ。

ダム、橋梁、港湾施設、工場、クレーン、運河エレベーター、そしてバケットホイールエクスカベーターまで、素晴らしい写真とその見どころがぎっしりと収められている。すばらしい。そして悔しい。ぼくも行きたい。


↑世界一高い橋・ミヨー橋。フランスにある。この橋について、たとえば「桁の断面が風の影響を抑えるため」など、なるほどという豆知識とともに語られる。


↑ご存じドイツにいる世界最大の自走式重機バケットホイールエクスカベーター! これ見たいんだよなー! いいなー!


↑ベルギーの運河エレベーター。「巨大なバスタブに船を浮かべ、68mもの標高差を1.4kmのレールを敷いてそのバスタブごと昇降させてしまうというとんでもない施設」。とんでもない!


↑とんでもない! 見たい!

いやー、すごい内容についつい「ヨーロッパにしかないもの」ばかりを取り上げてしまった。最初に良いこと言ったのにだいなしだ。えーと、もちろんこういうトリッキーなものばかりではなく日本にもあるものも載っている。たとえばオランダの水門。


↑1万年に一度の高潮から守るデルタワークス

江東区どころではない。さすが「世界は神がつくったが、オランダはオランダ人がつくった」といわれるだけの国である。


↑たとえばモノレールを見るのもいい。これは最初の懸垂式モノレール、ドイツのヴッパータール空中鉄道。曰く「空飛ぶじゅうたんってこんな感じなのだろう」。同じ懸垂式である千葉のモノレールと乗り比べたい。

で、上のモノレールがそうなんだけど、この本には著者八馬さん以外に4人の「ドボク好き」が寄稿している。このヴッパータール空中鉄道は『恋する水門』で知られる水門写真家の佐藤淳一さんによるレポート。ほかにも、


↑スイスのダムを紹介するのはもちろん『ダム』の萩原さん。


↑フェルクリンゲンのちょうかっこいい工場を紹介するのはもちろん『工場萌え』の石井さん。

など豪華メンバーが登場。そしてもちろんぼくも!


↑フランスはフィルミニの団地「ユニテ・ダビタシオン」をレポートしました。「土木と建築の間に建つもの」と題して。


↑団地はちいさい都市である、という自説を有名な絵本『ちいさいおうち』に関連させて論じましたよ。自分でいうのも何だけど、良いこと書いたぞ。

そう、このメンバーは伝説の2008年の「ドボクサミット」の面々だ。ヨーロッパ版でちょっとしたリユニオンが実現というわけだ。感慨深い。

と、すばらしい写真と見どころ解説満載のこの本なのだが、もっとも「すてき!」と思うのは、これがかなり充実したガイドブックである点だ。つまり、どうやってこれらのドボクたちにアプローチするのか、交通手段や旅程案、情報収集方法、心構えまで網羅されている。


↑7つのモデルコースが提案されている。全部試したい。だれか旅費をくれたまえ。


↑いいなー、特にこのドイツ西部巡回コース。


↑参考情報リストも充実。すばらしい。

見るだけでも楽しいし、いざ行動を起こすときには実用的。世界に一冊の本だ。これのアメリカ版やアジア版もほしい。あと、重要なのはやっぱりこれ見てると、逆に日本の土木の特殊性も見えてくる、っていう点だと思う。とにかくお勧め。みなさん、ぜひ読んでみて。