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さきごろ出版された「愛する人に東横インをプレゼントしよう 〜24歳女子の逆プロポーズ大作戦!!」を読み、出版記念イベントにも行ってきました。そこで思ったことをちょっと書きます。2つあって、ひとつは「理解するとかしないとかじゃないよな」って話と、もうひとつは「恋愛はマーケティングじゃない」ってことです。お、それっぽいこと言い始めたぞぼく。


■「好き」はコミュニケーション終了の言葉

この本は、盛大に話題になった同名のエントリ「愛する人に東横インをプレゼントしよう」の書籍化だ。著者のやっぱりぱんつさんが、東横インが「好き」だという彼のためにその建築模型をプレゼントしてプロポーズをした、という話。「え、東横インが……好き?……」っていう部分にひっかかる方は、上記エントリやまとめサイトなどを読んでみてください。説明ややこしい。
というかね、そもそもこのやっぱりぱんつさんの旦那さんである工藤さんが東横インが「好き」って言ってるのって嘘なんじゃないかとぼくは思ってる。「嘘」っていうと語弊があるけど、「好き」とは違う何か別の思い入れをもっている、というか。

ぼくはある人が何かを「好き」って言ったとき、そこにはなにかが隠されている、と思っている。以前「説明できない「好き」もどうでもいい」という文章で書いたことがあるんだけど、「好き」はコミュニケーション終了の言葉なのだ。ぼくは団地を「好き」と言ったことはない。例外はテレビのインタビューでしかたなくそう言うときがあるぐらい。「いちばん好きな団地はなんですか?」「なんで団地が好きなんですか?」って聞かれるからしょうがなく。人は理解できないものに熱中している人に対して「よっぽど好きなんですね」って言う。これ、要注意。実はこの「好きって言わせたい」の意味するところは「私はよく分かんないけど、好きならしょうがないよね」っていう「感情の落としどころ」なのね。だから逆にすごい趣味人に「私が○○が好きな理由は〜」って言われたら、ごまかされてるな、説明をめんどくさがられてるな、と思った方がいい。

って、もしかしたら工藤さんはほんとうに好きなのかもしれないけど。だったらすまん。


■ぜんぶ目くらまし

そしてまた「東横インが好き、って理解できない」という言い方も要注意だと思うのだ。特殊な趣味をもった人に対して「理解できない」と言うときに生ずる最大の問題は、その人は自分のことは理解できてると思ってる、という点だ。

いちばん「理解できない」のは自分のはずだ。

この本読んだらわかるんだけど、いちばんの謎は工藤さんの「東横イン"好き"」じゃなくて著者のやっぱりぱんつさん自身だ。工藤さんをtwitterでみつけて会ったこともないまま「結婚してください」と言って実際結婚する。東横インの模型を作る。ファッション雑誌を切り刻んでウェディングドレスを作る。ちなみに結局最後まで工藤さんの趣味については何一つ解説されないままこの本は終わります。すばらしい。

べつに自分自身も旦那さんも理解しようと思ってなさそう(すくなくとも本からそういう感じは受け取れない)。たぶんこの本に描かれてるふたりがいい感じなのは「理解するとかしないとかじゃない」って思ってることがうかがえるからだと思う。この本にちりばめられてる「好き」「理解」「愛」「寄り添う」などの「落としどころキーワード」はぜんぶ目くらまし。それらをとっぱらって読んでいくと、さいごに残るのは「なんだか楽しそう」ってことだけだ。

この本が言っているのは「人と結婚するのに『理解』は必要じゃない」ということだ。すばらしいメッセージだと思う。結婚だからついわからなくなっちゃうけど、親子を思い浮かべればよく分かる。あれ、お互いに最も「理解不可能」な存在だよね。それで十分なんだけど、それじゃあ本にならないから目くらまししたんだと解釈した。よく本にしたなー、とつくづく思う。


■ほとんど人がいないところに行った方がいい

ふたつめの「恋愛はマーケティングじゃない」。これは過去の自分の肩を揺さぶり強く言ってやりたい。

ネットで簡単にアクセスを集められる方法として「モテる方法」について一席ぶつ、というのがあるが、あれらが根本的に間違ってるのは、恋愛は個人で行うものであって統計のスケールが通用しないということだ。恋愛は一対一で行うもので(たまにそうじゃない方もおられるようですが)、つまりたったひとりに好かれればいい。だとすると「20代女性1000人にアンケートを採った結果〜」云々という情報はまるで役に立たない。たとえて言うと、理想気体方程式は個々の分子の動きを記述しない、ということだ。喩えの方が分かりづらくてすまん。マクロスケールの性質をミクロに当てはめちゃう、というのは論理的誤謬の最たるものだ。

なので、統計で導かれた「多くの人に好かれる要素」を身につけて効果があるのは、膨大な不特定多数の人を相手にする場面のみ。あなたがアイドルを目指すならそうすればいいと思う。

なにが言いたいのかというと、一見まったく何の役にも立たなそうだが、恋に悩む方こそこの本を読むといいってことだ。ここには統計的なモテ情報は何一つない。それでもこのうえなくすてきな相手を見つけたカップルの姿が描かれている。つまりあなたのなかにある統計には表れないマニアックな面を高めることこそ、たったひとりに好かれる最上の方法なのだ。だってさ、仮に多くの人に好かれる要素があったとしても、それを武器にするっていうのは、最も競争率の高いところで勝負するってことでしょ。ほとんど人がいないところに行った方がいい。そしてそこにいる人はまちがいなくあなたと気が合う人に違いない。

なのでこの本のサブタイトル「24歳女子の逆プロポーズ大作戦」も目くらましな。


■なんで恋愛について語ってんだ

ともあれ、この本を読んで、結婚という形式がすばらしいのは、まさにそれが形式であるという点にあって、つまり「理解」とか「愛」が先にあるのではなく、とりあえず一緒にずっといるという形式を踏んでいくと、結婚生活ができあがるんだよなあ、と思った。

なんでぼくがめずらしくこういう話題に熱くなっているのかというと、ぼくもまた昨年結婚したからであります。楽しいぞ、結婚。そしてまだまだお祝いは受け付けております。以上、よろしくお願いいたします。