ぼくはジャズが好きでよく聴く。学生時代はジャズ研でピアノを弾いていて、一時期はライブハウスでセッションをよくやってた。

っていう話をすると、ときどき「ちょっと興味があるんだけど、何から聞いたらいいか分からない」「みんな同じに聞こえる」と言われることがある。わかる。

この「ジャズへのとっつきにくさ」と「建築へのとっつきにくさ」って似てると思う。今回はそれを解消するはやみちを教えよう!


■うらやましい

さて、まずは先日すごくすてきな図書館を見に行ったので、その話をしよう。場所は北九州。旧庁舎を再利用した戸畑図書館だ。上のタイトル画像がその正面からの姿。


かっこいいよね。庁舎として建てられたのは1933年。築80年余りにして図書館に生まれ変わった。


裏手から。1933年といえば「KITTE」の元の建築、東京中央郵便局と同じ年だ。

正面入り口。


図書室のひとつ。天窓は再生した際に開けたもの。正面の上部が鏡になってる。


自分の近所にこういう図書館あったらいいなあ、うらやましいなあ。

カフェも併設されてて、すごく居心地が良かった。うらやましい。

この戸畑図書館の場所はここ↓


戸畑駅から1km弱。現戸畑区役所のはす向かい(大きな地図で見る


区役所の上から眺めると、こんな。右(北)に見えるのが図書館。


ちなみに地形図でここらへん見るとこんな。この図書館をはじめ区役所などの施設が微妙に高台にあるのが分かる。実際、昔は海であっただろう駅周辺の低地から図書館に向かう道のりは、下町から山の手に向かう感じだった。戸畑は歴史上重要な(日本書紀とかにも出てくる)都市だけど、平地が少ないこのあたりなら、そりゃあここに街作るよなあ、とこの地形図見るとわかる。ちなみに現在の戸畑区の面積の半分は埋め立て地の工場だ。以上、知らない街に行く時はまず地形図を見る、というぼくの趣味でした。


■きっかけは「工場萌え」

さて、今回北九州に行ったのは福岡のラジオ局「CROSS FM」のUST番組に出演したから(そのときの放送動画はアーカイブされてます→『2014年北九州の旅~通好みの街をゆく~』)。ぼくにとって北九州と言えば工場でありジャンクションで、いつもなら用事が終わったらそれらをめぐるのだけれど、今回はこの戸畑図書館にどうしても行きたかった。

なぜか。事の発端はこのリニューアルをニュースとして取り上げた「Jタウンネット」の方が「大山さん、この図書館興味ないですか?」と連絡をくれたことに始まる。もちろん興味あるにきまってる!なんせ工場やジャンクションなど現代の土木構造物を対象にすてきすてきと騒いでいるぼくだが、大学での修士論文は構造物のリノベーションだったのだ。

一方、その方がなぜぼくが興味を持つだろうと思ったのかというと、この仕事をてがけた建築家・青木茂さんが取材で「最近はやりの『工場萌え』の人たちにも喜んでもらえるのではないか」とおっしゃったからだという。なんと!

しかし、1933年のいわゆる帝冠様式の建築をリファイニング(これの意味は後述)した図書館がどうして『工場萌え』なのか。それはこの図書館の耐震補強方法に理由がある。

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このグレーの鉄骨フレーム!

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かっこいい。というか、かわいい

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この足のところかわいいよね。

これらの鉄製の構造物が、耐震補強なのだった。これはすてきだ。よくある学校の耐震補強にあるような、斜めの筋交いを壁の外にはめ込むやつ↓

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こういうやつね(ちなみにこれは河原町団地の夏祭りの時撮ったもの)

歴史的建造物の外観をこういうふうにするわけにはいかないので(個人的にはこういう身も蓋もない補強っぷり嫌いじゃないけどね)、内部に補強材を入れなければならない。その結果なのだった。

で、その際に、青木茂さん曰く「補強を隠すんじゃなくて、見せちゃおう、と」。機能むき出しのさまが工場好きにもぐっとくるのではいかと、そういうことなのだ。正直、これが工場萌え的かというと、ちょっと洒落ていすぎるんだけど、でも確かにこれみんなすてきって思うと思う。

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やぐらのようになった鉄骨が建築の内側要所要所にこうやって差し込まれているというわけです。


■次の時代に引き渡すっていうのはそういうこと

いまさらりと「青木茂さん曰く」と書きましたが、そうなんです。Jタウンネットの方が実際に青木さんをご紹介くださり、ランチをご一緒させていただいたのです。青木茂さん、すごく素敵で愉快な方で楽しかった!

そのランチの席で、さっき書いた「リファイニング」の定義をお話いただき、目から鱗だったのですよ。「大山君、リノベーションとリファイニングの違いは何か分かる?」と、それまで談笑していたのが、一転鋭い目つきになって聞かれてどきっとした。

青木さんが提唱する「リファイニング建築」とはこちらに解説がありますが、ようするに耐震をしっかり行うということ。

え、そんなのあたりまえじゃん、と思うかもしれない(ぼくも一瞬そう思った)。でも、いざ昨今はやりのいわゆる「リノベ」の事例を見てみると、おおかた耐震補強してないわけですよ。あれってつまるところ内装一新だ。既存のすてきな建築を壊さずに再利用するということはつまり「未来に残す」ということなわけだけど、そうするとこの国では耐震補強は必須。リファイニングというのは、次の時代に引き渡すということなのであった。なるほど!

(いやまあ、でも実際には難しいことがたくさんあるし「内装一新」でとりあえず時間を稼ぐ、っていうことも悪くはないと思いますけれど(っててきとうなことを言うと青木さんに怒られそうですが)。しかしとにかく、お話を聞いて、ぼくとしてはけっこうはっとしたのでありました)


もちろんただ耐震補強しただけでなく、内部は全面的に素敵にデザインされ直しておりまして、たとえばこの階段は新設。ほかにも庁舎時代に増築されていた部分をとりはらったそうです。

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ホールのこの吹き抜けも新設。

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この吹き抜けのおかげで、エントランスから入るとまず上に目が行く。すてき。でも耐震補強とこの吹き抜け両立させるのは難しかったのではないかと推察。


■設計者と会って話をしよう!

さて、冒頭の「建築を楽しむためのはやみち」はどういうことかというと、ぼくが戸畑図書館を見に行った以上の顛末がそれだ。たぶん、青木さんにお会いしなければ北九州に仕事で行ったとはいえ、工場もジャンクションも行かずにここに来ることはなかっただろう。

つまり「設計者と会って話をする」ということだ。ぼくは幸い建築家の知り合い・友人が何人かいる。たぶんそのおかげで建築を楽しめているのだと思う。勉強をして、実物を見に行って、という繰り返しだけで建築について造詣を深めるというのはすごくたいへんな作業だ。だけど、建築家に会って、その人が作った建築はどこがポイントか、とか、建築家ってどういうこと考えているのか、を聞くだけで一気に突破口が開ける。そこで聞いた話は間違いなく他の建築・建築家とつながっている。なぜなら、どんな建築家でも過去と現在を参照しない人はいないから。建築とはそういう分野だ。

気質的に気が合う、とか趣味が同じ建築家とお近づきになるといい。建築自体にはさまざまな歴史的経緯とスタイル・思想の世界があるが、そこを入り口にするのではなく、人間を入り口にしてその人の建築を好きになった方がはやみちだ。

そんな簡単に建築家と知り合いになれるかって?だいじょうぶ、日本の一級建築士の数は29万人ほど。これは福島市の人口と同じぐらいだ。って自分で書いててすげー多いな!ってびっくりした(ただ一級建築士のすべてが建築家ってわけではないんですが)。おそらく友人の友人に建築家がいる確率はかなり高いと思う。

そして、重要なのは建築家って話するの好きだし、フランクな人多いですよ、ってことだ。興味を持っていると伝えれば、喜んで話をしてくれると思う(だめだったら次の建築家にコンタクトをとろう!)。

今回改めて、建築・建築家っておもしろいなあ、すてきだなあ、と思った。みなさんもぜひ建築家と知り合いになろう!
 
 
(あ、ジャズの入門方法?うーん、ジャズはなあ…プレイヤーの数は建築家ほどいないし、みんなフランクかっていうとけっこうめんどくさい人多いし…むしろ人を知ると嫌いになるかもしれないし…)
  
  
【追記】
建築士の人数に関しておもしろい喩えをいただきました↓


そしておそらくタクシーの運転手と同じぐらいおしゃべり好きだと思います。